対談:福祉×クリエイティブを考える
〜Vol.2異業種コラボだからこそ解決できる理由

一本目に続き、シーアイパートナーズ代表・家住氏と、TECTECスクール天王寺校/株式会社TECTEC代表取締役浦久保との対談をお届けします。

プロを生み出すために、プロの教えを

家:今、様々なところで福祉の利用者に、ITやパソコンの技術を教えていこうという取り組みが行われています。

ですが、それを福祉の中だけで完結しようとした場合、その道のプロではない人間が教えているので、当然ながら教えられた側もその技術では食べていけないんです。

たとえばパンを作っている作業所がありますが、福祉の人間が技術を教えても、パン一筋に生きてきて、大行列が出来る店を作った職人の方と対等に戦えるわけがないんです。福祉のプロはあくまで福祉のプロなんで。

本当にパンの技術に優れた人が内部に入ってきた時だけは上手くいくかもしれないけど、その人が「やめます」ってなったら一気に破綻してしまう。だから成立しない。

このTECTECというのはまさにその「コラボ」を半永久的にやっていける仕組みとして作っているからこそ成り立つものかなと思いますね。

浦:それはすごくよくわかる。僕の友達で発達障害の子を持つ親がいて、その子がプロのパティシエとコラボしている作業所でタルトを作っているので、年間契約で送ってもらっているんです。

作業所のなかには「福祉だからここまでのレベルでいい」と自分達でリミットを設定しているところもあると思うんですが、それではマーケットで勝てるわけがない。

いくら「お涙頂戴」っていっても美味しくなければ買ってくれない。そのあたりは福祉の自助努力では限界があって、きっと掛け算していく世界なんだろうなと。

その掛け算がきっと新しいプラスアルファを生んでいくし、一般の概念と福祉の概念をかけ合わせることによって福祉のウエイトってもっと小さくなるかもしれない。

家:おっしゃる通りですね。

ただ働ける環境を作るのではなく、個人の価値もあげていきたい

浦:価値ある仕事が実現できれば、安いお金で仕事を請け負わずに正当なギャラを報酬として求めていける。

そこは僕ら自身がきちんと、福祉や障がいなどの周辺につきまといがちな「壁」を取る努力をしなければいけない。乗り越えるんじゃなくて「取る」努力。

乗り越えるというのは一時的な方法だけども、根本的なことをどう取っ払うかというのがとても大事なところで。

A型事業所をどう運営していくかというところに関して、その考え方と仕組みとクオリティーは絶対に妥協できないところですね。

家:障がいのある方を「企業」という場所に入れようとすると、大多数の中に本人が「合わせに行く」。その合わせに行く訓練を今の就労支援ではしているんだけども、それは限界があるんですよ。合わせっぱなしだとその人は「少数派」として辛い思いをするし、無理しないといけない部分も出てくる。

でもこのTECTECスクールに関しては、扱っている領域がそもそもクリエイターの業務であり、皆さんが単独でお仕事をすることが可能なので、企業にも入れますし個人事業主にもなれますし。汎用性の高い働き方の選択肢があるから「なりたい」をかなえることがより実現しやすいんですよね。

浦:そういう風におっしゃっていただけると、このプロジェクトを立ち上げた意味もあるし方向性もしっかり見えてきた気もします。

今後、少子化が進むなかでも「発達障害」はまだまだ増える可能性があって、様々な課題に向き合う必要が生じてくる。その中でいま私たちが向き合っている課題は、大きく2つです。

ひとつは、ここで我々が得た知見をベースにして、学校ではできない「インクルーシブ教育」をどうやって一般社会に浸透させ、実現させていくか。

もうひとつは、子ども達を自立させる教育の「次」の段階として、彼らを受け入れてくれるインクルーシブな社会を実現するためには、どんなところから手をつけていけばよいか。これは企業の障がい者雇用という部分にも繋がっていると思います。

この大きな2つの課題をクリアしていきたいですよね

家:そうですね。まずはこのTECTECというモデルで夢をかなえられた人、生き生きと活躍して働ける人たちをいかに大勢、世の中に出していくか。

そこがないと夢物語で終わってしまう可能性があるので、

実体ベースで「こんなにもすごいプロジェクトで、こんなにもたくさん自分の好きなことやりながらご飯を食べている人がいるんだ」という数をいかに生み出すかですよね。

そうなってきたら、周囲が黙っていないはずなんです。

「あ、これはちゃんとやらなアカンぞ」って教育委員会であったり、政府が無視できなくなる規模にまで上がっていきたい。そこまでの実績をいかに早く作るかにかかっていると思います。

浦:それはすごく大事だし、誰もが納得する成果なんだろうと思うんで、それはいち早くやっていきたいですよね。

目指すはプライベートブランドの確立

浦:それともうひとつの可能性として感じているのが、我々自身が「PB」、いわゆるプライベートブランドになるという考え方。

たとえばステーショナリーグッズや生活雑貨のブランドを立ち上げて、企画やデザイン、製品開発から商品販売、プロモーションまでやっていく。

次の可能性としてはそういう芽もあるのではないかと思っていて、そこも我々の事業におけるひとつのブランディングとしてしっかり見据えて検討できれば、と思っています。

福祉事業とクリエイティブとの掛け算として、TECTECのスクール事業をやっていくことに加えて、「自立モデル」をたくさん作るのも、我々のやっている事業に「賛意を得る」という意味ではひとつの掛け算でありコラボレーションだと思います。

もちろんクリエイティブの能力は担保しながらですが、そこの部分での賛同者集めとしてのインクルーシブ教育を家住さんと一緒にやっていきたいなと。

家:浦久保さんがおっしゃった「PBとして発信していく」というのが、実はかなり重要でして。

今、膨大な数の福祉事業所があって、高齢者介護まで入れると毎年1万件くらい増えているんです。そんな中、就労支援というのも非常に拡大路線にある事業所なんですが、どこも「リアルな」仕事を生み出してないんですよ。

浅く広く使える技術を訓練して、就職活動して企業に入る、そういうところは数多くあります。

ただ、自社で自分達の力で仕事を生み出し、そこで働ける人を育成してそこで収入を得る、というモデルを実現している事業所というのがほぼ存在しないんですよ。

だから浦久保さんがおっしゃったことはまさに今、私たちが本腰を入れてやるべきことなので、これもぜひ一緒にやっていきたいと思います。

実は私、「上場したい」とずっと周囲に話しているんです。なぜ上場したいかというと、企業や政府も含めて私の啓蒙活動に耳を傾けてくれる人を集めようとすると、一定数の規模で一定数の功績を上げることも重要になってくるからです。そうしないと啓蒙の声が届きにくい。

「啓蒙家になりたい」と思って今の事業をやってますので(笑)、ぜひ一緒に走りきりたいなと思います。

浦:それはすごく大事だと思うし、そういう人が世の中を変えていく、原動力になっていくと思ってますので、実績プラスそれをしっかり「声」として発信していただく。そこはしっかりお手伝いしていきたいなと思ってます。

CONTENTS